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E組目撃証言!







E組目撃証言その一

 


その時、俺は思ったんだ。

 

コイツ絶対、確信犯。

 



 

E組目撃証言その二


 

俺たちがコンビニの裏で下級生をカツアゲしてる時だった。

 

「待てい、そこの不健康極まりない顔した男三人。その奪った金をどうするつもりか」

 

とか妙な声が聞こえて、

「あ゛あ゛?」

って振り向いた瞬間、

「おぐっ!?」

ってなって、

 

「そうだな、やはり倒しておいた方がいいんだろうな、クラス目標のためには。なにせ『世の中を平和にする』がモットーだからな、うん。」

気付くと安岐澪高校の制服を着た女が立ってて、急所に微塵の容赦も無く一撃してくんだ。

死ぬかと思った・・・

あまりの痛みに気が遠くなったんだけど、

 

「助けてやったからには謝礼が出るんだろうな?」

 

とか言ってたのは何とか覚えてる。

なんてえがめつい女だって思ったね。

 

 

E組目撃証言その三

 


俺が屋上で授業をサボってた時だった。

「いっちばーんのーりー!」

とか叫び声がして、体育着着た女子が外側から屋上に登って来た。フェンスの、向こう側からだぞ。
「あれ、先客がいるし」

「えー、マジでー?」

するとわらわらと登ってくるわ登ってくるわ。俺は思わず我が目を疑った。流石に命綱はつけているようだが、なんとそれはカーテン。

わらわら登ってきた中には男子も女子もいたが、男子のなかには命綱をつけてない奴さえいた。なんて奴らだ。


奴らはフェンスの向こう側で命綱を外すとフェンスを乗り越えて屋上に侵入した。俺はあまり物に動じないタチだが、流石にこれは驚く。思わず唇の端にくわえていた煙草を落としてしまった。

「おまたせー。買って来たよー」


と、がちゃっと今度は屋上の入り口のドアが開いて、いかにもインドア派というような面々が姿を現した。


と、そこで、俺がいるのに驚いたのかちょっと驚いた顔をして、持ち上げたビニール袋を背中の方に隠しながらすすすと外側から登ってきた面々の方に行く。

そのビニール袋から透けて見えたのは、もしかしなくともビールと日本酒とチューハイと、そのつまみじゃないだろうか。


「・・・・・・・・・・」


「・・・・・・・・・」


「・・・・・・・・・・・・・見た?」


「何を」


「・・・・・見た?ビニールの中身」


「・・・・・・・・湖畔ビールとチューハイとカシスオレンジと炭酸グレープとコーラと米酒と酒月、それにサラミとするめとチーズと手握りおむすびとポテチとえびせんとカール」


とりあえず見たものを全部言ってやった。一応、飲んだことのあるやつばっかだったから全部知っている。


「・・・・・・・・見た?」


「・・・・・・・・見られた?」


「・・・・・・皆の衆・・・そこまで見られちゃァ生かしておけぬよなァ・・・?」


奴らから殺気がゆらり、と立ち昇った気がした。


うわやべえ、とこの俺ですら思った。

から、逃げた。


「逃すなァ!」


屋上のドアに向かおうとしたら奴らのそれはもう訓練された軍隊でもこうはいかないだろうやたら水際立った動きでそれを阻止されてしまう。


何なんだこいつら。本当にただの高校生なのかと問いたくなった。


しょうがなく、フェンスに片手をかけて飛び越えた。


奴らの騒ぐ声が聞こえる。まあ、普通屋上から命綱もつけずに飛び出すバカはいない。奴らならやりそうで怖いが。

下には、生い茂った木の枝。顔を庇ってそこに突っ込んだ。枝の位置はわかってる。木の枝で少し制服が破れたが、気にせずに太い枝に飛び降りて、さらにその下の枝に降りて、最後は面倒臭くなって車の上に飛び降りた。

膝を思いっきり曲げて衝撃を殺したが、それより


「特攻ォォ!」


という声と共に奴らが飛び降りてきたのにかなり驚いた。あいつら、命がいらないのか。木の枝にうまくひっかかっているが、下手をすれば下に落ちて御陀仏だ。だが、やはり慣れている俺よりあちこちを枝で切っている。


おまけに奴ら、俺の真似をして車に飛び降りようとしている。そんな高さから飛び降りたら奴らの足も車もただではすまないというのに。かくいう俺の足下の車も大きなへこみが出来てしまっているが。

重ねて問いたい。あいつら、本当に高校生か?

とりあえず俺は逃げ出す事にした。あんなに大量の命知らずを殺さずに戦闘不能にするなんて、無理だ。


「逃げるかアア!」


とかいってたから


「多数で追いかけられて逃げねえ奴は馬鹿だ!」


って言い返してやった。

そのまま納屋の屋根上を走って、止めておいたバイクに飛び降りてエンジンかけて逃げた。

走って追いついてくる奴がいたから人間かよ!とか思いつつ酒瓶に布キレつけて火つけた火炎瓶を投げて、逃走した。


俺はつくづく、奴らの行く末が恐ろしくなったね。



 

高校に通いたくない、なんてどっかの引き篭もりみてえな悩みができたのは、それからだ。



 

 

 

E組目撃証言その四

 

俺は見たんだ。

 

E組の会計係が新聞部部長から万札を受け取っているのを。
 
その後新聞部がE組特集を出したんだ。よくあのE組が大人しく取材受けたな、新聞部度胸あるよなとか皆言ってたけど。

 

社会の裏を見てしまった気がしたよ。

 

 

 

E組目撃証言その五

 

この間、校庭の隅で落ち葉掃きをしてる人がいたの。

なんとなく気になって、放課後行ってみた。


そしたら秋風の寒いこの時期に半袖半ズボンの体育着で、鼻を赤くして箒を握ってる女の子がいたから、思わず苦笑しちゃって。むっとした顔をしてたから、ごめんなさいって謝って長袖を貸してあげたの。

そしたらすっごく感動した顔でこっちを見てきて。

ふと思いついて、本当ならバザーに出すつもりだった『熱カイロ十個入り』を二つあげたらキラキラした目でこっちを見てきて。

小動物にエサをあげて手懐けてるような気分だったわ。ほら、動物園のリスとかにひまわりの種をあげてる気分っていうの?

 

そしたらその時、石が飛んできてね。

 

女の子は目をキラキラさせてて気付くのが遅れたみたいなの。

気付いたら私、石を手で叩き落しちゃっててね。手の甲がすっぱり切れて血が出ちゃったの。ほら、まだキズ治ってないのよ。痛かったわ。膿んじゃってね。

投げた男子達が逃げていくのが見えたけど、女の子が心配そうな顔してたから飴をあげて、大丈夫だからってにっこり笑って見せたわ。私、小動物好きなのよね。

 

その後保健室に行ったけど、遠くで「聖母(マドンナ)をよくも!」とか「殺しても足りんわァ!」とか大勢の人の声が聞こえてね。

十分くらい後にぼろぼろの泥だらけになった男子達が泣きながら保健室に駆け込んできて、保健室の先生と一緒にびっくりしちゃったわ。

 

その男子達はなぜか私に平謝りしていったけど・・・なぜかしら。

 

 

それからというもの、私に「聖母(マドンナ)」ってあだ名がついたの。



・・・なぜかしら?

 

 

 

E組目撃証言その六

 

私は見てしまった。知ってしまった。

 

歓楽街で我が校の生徒が目撃されたという情報が入り、職員が時々見回る事になった。我が校はバイトも禁止なので、歓楽街でなくとも生徒がいたら補導することになっている。

 

私は見てしまった。

 

俗に言うオカマバーなるところに、

他店のbPホストらしい――周りのオカマの黄色い声を信用するならだ――容姿端麗な青年と


ミニスカートの可憐な少女――場所を考えるならこの少女は男である筈だ――と

なんとも艶のある美女――男である筈なのにこの色気と巨大な胸はなんだろう――


がいるのを。楽しげに話しているのを。

 

その顔が、青年と少女と美女の顔が、我が校の男子生徒三人の顔そのものだったことを。

 

それが――あまりの爽やか好男子ぶりで校長にも覚えがめでたく他校にも名の知れる美女、

男子陸上部のホープとして、多少問題児ながら将来はオリンピックまでと名を馳せる美少女、


副会長ながら生徒会を実質取仕切ると言われ、理事長とすら直談判可能な権力を持つホスト。

 

バイト禁止以前の問題のような気がするのは何故だろうか。

 

私は知ってしまった。見てしまった。

 

結局迷った挙句、注意はしておいた。

「事情が無い限りバイトは禁止だ、教師が見回ってるから注意しなさい」


三人は驚いた顔をしていたがにやっと笑って「大丈夫です」と自信満々に頷いていた。

全く・・・教頭の耳にでも入ったら卒倒するんじゃなかろうか。

 

 

「あ、副教頭、お疲れ様です。生徒はいましたか?」

途中で主任に声をかけられたから、私はもちろんこう返した。

 

「いや、見ないですね。情報自体が間違いなんじゃないかって思えてきますよ。我が校の生徒が歓楽街になんて、そんな訳ありませんね」

 

言っている最中にE組の生徒らしき女子が遠くの方に見えたので少々慌てたが、

「ですよねえ。E組じゃあるまいし」


言った主任がこれだから頭の古い奴らは、と言いたげな薄く嘲笑が混ざった視線で私を一瞥して携帯電話を取り出したので安心した。

頭の古いふりでもボケたふりでも、それをしているとどうせボケた老人だ、と迂闊なことを漏らす人間が多いものだ。


もっとも、E組には「ボケた老人」ではなく「ボケたふりをしている意外と話のわかる老人」と思われているようである。が、私が初代E組であることを彼らが知ったらどう思うのだろうか。「くえないジイさん」という評価に様変わりするのだろうか。

 

爪も牙も、隠すのは慣れたもの。


副がつく職業は苦労が多い、と私は溜め息をついたものだ。

 

 

 

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